パーキンソン病
parkinson
4つの主な症状
診断には少なくとも2つの症状が存在することが必要です。
振戦
パーキンソン病に最も特徴的な症状であり、75%の患者さんで最初に出現する症状です。
普通は手や指にみられますが、足やあごに現れることもあります。
パーキンソン病の振戦は無意識のうちに現れる規則的でリズミカルな小刻みに震えるような運動で、普通筋肉がリラックスした状態で出現するので安静時振戦と呼ばれます。
パーキンソン病の振戦は運動に伴って手や足の筋肉が収縮している間は、多くの場合軽減または消失しています。振戦は身体の片方の手足から始まり、経過と共に反対側の手足にも広がります。
パーキンソン病の振戦は親指と人差し指の間で丸薬を丸めるような動きに似ていることからピル・ローリング(薬を丸める)振戦と呼ばれることもあります。
約2割の患者さんでは運動中にも、あるいは運動中だけに振戦がみられ、しばしば安静時振戦と混同されますが、これは本態性振戦という別のタイプの振戦です。本態性振戦は精神的ストレスにより増強されパーキンソン病の薬は効果がありません。
固縮(筋固縮)
筋肉が硬く強ばった状態を指します。普通筋肉は運動する時に収縮して硬くなりますが、安静時にはリラックスして軟らかくなります。
固縮の手足は筋肉が硬く収縮したままの状態が持続するで、手足を大きく伸ばすことが困難になり、歩く時に両手の振りがなくなったりします。
また、パーキンソン病では顔の表情が乏しくなり、仮面様顔貌と表現されることがありますが、これは顔の筋肉の固縮が一部で関係しています。
ペンで字を書く時に小さくしか書けなかったり、まばたきの回数が少なくなったりするのも固縮が関係しています。
動作緩慢
単に動作のスピードが遅いことだけでなく、一連の動作をきちんと最後まで終了できないことや、動作を直ちに開始することが困難になること、動作のスピードが遅いために途中で動作が止まってしまうことなどを指します。
動作緩慢はパーキンソン病の中で最も目立つ症状であり、多くの場合最も日常生活に影響を及ぼす症状です。動作緩慢が強いと歩くことや体位変換することが困難になります。
動作のスピードが遅く、最後まで終了できない現象は話をする時や物を飲み込む時にも影響を及ぼしてきます
姿勢障害
立っている間や姿勢を変えた時にバランスを失ったり不安定になったりする症状のことを言います。
この症状は患者さんよりも周囲の人の方が先に気付くようです。
姿勢障害の症状が現れると向きを変えたり体位を変えたりする時にバランスをとるのが困難になります。
つまずいたり押されたりした時に反射的にバランスをとることができなくなり、転倒する恐れがあります。姿勢障害に対してパーキンソン病の薬はあまり効果がありません。
治療の目標
現在までにパーキンソン病を根治する方法は発見されていません。
したがって、パーキンソン病治療の目標は患者さんの生活の質をできる限り良くすることになります。
治療を成功させるために最初に必要なことは患者さんと主治医と患者さんの御家族が信頼関係を築くことです。そして、皆が協力することによって患者さんに最も適した薬を見つけられ、また、最も上手く病気と付き合う方法を見つけることができるのです。
特に、患者さん御自身がパーキンソン病のことや薬の作用についてよく知ることが重要です。
薬を用法どおりきちんと服用しているというだけでは不十分です。パーキンソン病の経験を利用してやるぞというくらいの気持ちで前向きに考えて行かなければなりません。
治療薬
レボドパ
レボドパまたはL-ドパは1967年に登場して以来現在に至るまで最も効果の高いパーキンソン病治療薬です。レボドパは脳の黒質にある神経細胞に取り込まれ、ドパミンに変換されて脳の線条体で分泌されます。
分泌されたドパミンはドパミン受容体に結合し作用を発揮します。
最初のうちレボドパは非常によく効くので、飲み忘れない限り、パーキンソン病はもう無くなってしまったと錯覚するかもしれません。
レボドパは極めて効果の高い薬ですが、副作用もあります。最も問題となるのは吐き気ですが、レボドパに脱炭酸酵素阻害剤を合わせた合剤を使用することにより吐き気を減らすことができます。
また、多い錠数で治療を続けた場合には症状の日内変動(ウエアリング・オフ現象=薬の効果切れ現象)やジスキネジア(無意識のうちに手足や身体が踊るように動く現象)という副作用が現れてきます。一旦ウエアリング・オフ現象が現れると、レボドパ1錠の効いている時間が少しずつ短くなってゆくのがわかります。
これに対してはCOMT阻害薬(コムタン)を追加するとレボドパの効果時間を延長することができます。COMT阻害薬より効果は弱いようですがMAO-B阻害薬(エフピー)にもレボドパの効果時間を延長させてウエアリング・オフ現象を改善させる効果があります。
ドパミンアゴニスト
ドパミンアゴニストと呼ばれる薬で治療を開始してレボドパの投与開始を遅らせることにより、ウエアリング・オフ現象やジスキネジアの発現を遅らせることができます。
久米クリニックでは治療をドパミンアゴニストで開始するか、あるいはレボドパで開始するかは患者さんとよく話し合ってから決めることにしています。
たとえレボドパで治療を開始したとしても将来ドパミンアゴニストを追加することはできますし、反対にドパミンアゴニストで治療を開始して後から必要に応じてレボドパを追加することもできます。
最終的にはほとんどの患者さんでレボドパとドパミンアゴニストの両方が必要になってきます。
ドパミンアゴニストは使いやすく、レボドパと同様にパーキンソン症状に対して効果的です。さらに、レボドパには無い病気の進行を抑える作用を持つ可能性があります。
セレジリン
セレジリン(エフピー)はMAO-Bと呼ばれる特殊な酵素の働きを阻害する薬剤です。
それ自体のパーキンソン症状改善効果は小さいけれど、レボドパと併用することによりレボドパの効果時間を延長させることができます。
アマンタジン
アマンタジン(シンメトレル)は米国において当初A型インフルエンザの予防薬として開発されました。
1967年にあるパーキンソン病患者さんがインフルエンザの予防のためにアマンタジンを服用したところパーキンソン症状が改善し、アマンタジンの抗パーキンソン病効果が見つかりました。アマンタジンはドパミン神経細胞に作用してドパミンを放出させ、さらに脳内でドパミンに対抗するアセチルコリンの産生を妨げて効果を発揮しています。
アマンタジンは約半数の患者さんに効果が見られますが、その半数以上では1年以内に効果が減弱してきます。
また、最近アマンタジンにはレボドパ治療の副作用であるジスキネジアを改善する効果があることがわかってきました。
一方、アマンタジンには下肢の皮膚が変色したりやむくんだりする副作用がまれにみられます。
また、高齢の患者さんでは抗アセチルコリン効果により幻覚が現れたり、記憶力が低下することがあります。
抗コリン剤
レボドパが登場する以前のパーキンソン病治療の主役は抗コリン剤と呼ばれる一群の薬でした。
これらの薬は体内で産生され様々な臓器を調整しているアセチルコリンに対抗する作用を持つので抗コリン剤と呼ばれています。一般に、抗コリン剤と呼ばれる薬はアセチルコリンが働く全ての臓器に対して何らかの作用を及ぼしますが、多くの抗コリン剤は特定の臓器に対して他の臓器よりも強く作用する傾向があります。
例えば、アトロピンという抗コリン剤は心臓に作用して心拍数を減らします。
また、プロピベリン(バップフォー)という抗コリン剤は膀胱の過剰な収縮を抑えるので頻尿の治療に用います。そして、アーテンやビペリデン(アキネトン)がパーキンソン病の治療に使われます。アーテンとビペリデンは特に振戦と固縮に効果があります。
抗コリン剤は口渇、便秘、尿閉、錯乱、幻覚などの副作用が現れることがあるので高齢者では注意する必要があります。
久米クリニックによる治療について
はじめに患者さんならびに御家族と相談の上で具体的な治療の目標を設定します。
例えば、会社に通勤して仕事を続けること、外出して友人達と趣味を楽しむこと、スーパーへ買い物に行き、家で家事をすることなど病気のせいであきらめかけていることを目標に設定します。
そして、その目標を達成できる程度の運動機能が回復するまで薬物治療を強化して行きます。
ところで、パーキンソン病の薬物治療ではしばしば副作用で治療薬を予定通り増量できないことがあります。そのような場合には、増量速度の減速、副作用予防薬の併用、治療薬の変更などの方法を組み合わせて必要な量の治療薬が服用できるように工夫します。
また、治療薬が十分に投与されても満足な運動機能の回復が得られない場合には理学療法を加えることができます。